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ま心のコラム

藪の中に真実がある

2018年5月1日

川龍之介の小説「藪の中」は真実とは何かということを考えさせてくれます。
物語の初めに侍が藪の中で刃物で刺されて死んでいるのが見つかります。役人に取り調べられた盗賊、死んだ侍の妻、そして霊媒に呼び出された侍の魂がそれぞれに語る「真実」はどれも「侍を殺したのは自分である」という矛盾した話であるため、本当は何が起こったのか分からないまま物語は終わります。

説の舞台となった平安時代ならずとも、現代でも真相が「藪の中」となってしまった事件は数多くあります。
その一つが「袴田事件」です。
1966(昭和41)年6月、静岡県でみそ製造会社の専務一家4人が殺害され、住宅が放火されるという事件が起きました。
犯人として逮捕されたのが、みそ製造会社の従業員で元プロボクサーの袴田巌さんでした。
一度は犯行を自供した袴田さんは、裁判では一貫して無実を主張しました。しかし、最高裁判所は袴田さんに死刑判決を言い渡しました。
袴田さんサイドは冤罪を主張して法廷闘争をつづけました。数多くの人々も袴田さんを支援しました。

して2014(平成26)年3月、犯人のものとされるシャツについていた血液のDNA型が袴田さんのものではないという再鑑定の結果が決め手となり、裁判所が袴田さんの再審開始を決定しました。同時に袴田さんは拘置所から釈放されて自由な暮らしを取り戻しました。逮捕から実に48年もの年月が経っていました。
再審開始の可否をめぐって、検察との争いが今も続いています。

んな事柄にでも真実は必ずあります。ただ、それを見つけ出すのは常に非常に難しいことなのです。
世の中では、正しくないことが力を持つことも少なくありません。真摯な努力が報われないこともあれば、思いやりの気持ちが相手に届かないこともあるでしょう。

かしそれでも正しいと思ったことをしっかり主張し、真剣に努力することをやめず、誰にでも想いやりの気持ちを持って接することが、力強い心の在り方ではないでしょうか。
人間の心とは、いつもしっかりと正しい位置に置いてあるときにだけ、真実を見極める豊かで力強いパワーで満たされるものなのです。

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