携帯電話と針供養
2014年02月04日
車の中も外もいつもきれいに掃除しておくと、不思議と燃費が上がるそうです。そんな時、車の持ち主はまるで車と気持ちが通じ合ったかのような気持になるかもしれません。
また万年筆やボールペンはいつも使っている人の字のクセを覚えてしまいます。誰かのペンを借りて使ったら、書く文字がどことなくその人のものに似てしまったという経験をしたことはないでしょうか。
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そんな時、まるで物にも心が宿っているようだと感じたとしても、決しておかしなことではありません。それは日本人に古くからなじみのある観念なのです。
室町時代には、百年経った器物には「九十九神(ツクモガミ)」という精霊が宿ると考えられていました。物を大事にすれば九十九神が幸せをもたらし、粗末に扱えば災いをもたらすという、神道に基づいた考えを人々は信じていました。
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江戸時代になるとその考えはさらに発展し、どんなものにでも心が宿ると考えられました。折れたり曲がったり錆びたりした古い針をこんにゃくなどの柔らかいものに刺して労をねぎらい、裁縫の腕の上達を願う「針供養」は、そんな江戸時代から始まりました。最近の研究では、江戸の町は世界に冠たるリサイクル都市だったそうです。それは、九十九神が物に宿っていたおかげだったのかもしれません。
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物にも心があった時代はもう過ぎ去ってしまったのでしょうか。心を込めて大事にするいとまもなく、ありとあらゆる物が濁流のように流れ去っていく時代と場所に私たちは生きています。いつからか物は心などない単なる消費物としてしか扱われなくなりました。物を大事にするどころか、流行を追っていかに早く買い換えるかが美徳とさえされる社会になりました。
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物とは、人の心に宿った心躍るアイディアや、大自然の深遠な摂理が形となって現れたものです。それを大事にするということは、とりもなおさず「みんなが便利に楽しく暮らせるように」と願う優しい心や、この美しい大宇宙を貫く人知を超えた偉大な摂理に感謝と敬意を示すことです。
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大企業は生き残りのために大勢の従業員が路頭に迷うのも構わず解雇し、まだうら若き青年は「死刑になりたかったから」という理由で面識のない人に危害を加える。そうしたすさんだ側面を持つのが今の世の中です。振り込め詐欺などは、人間の弱みを突くニセの暗証番号として言葉を使い、引き出せるだけのお金を引き出そうという乾ききった考え方に基づいた犯罪なのに違いありません。
物に心や感謝の気持ちを感じなくなった時、次に心が失われて「モノ」になってしまうのは、残念ながら人間でした。
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人間が作り出す物は単なる便利な道具ではなく、思いやりの心を伝える贈り物なのです。物を大切にしない人に、人から愛される物が作れるでしょうか。経済的な発展のカギも、実はそういうところに潜んでいるのかもしれません。
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