不老不死の仙薬
2013年02月01日
中国に『杜子春伝』という物語があります。不老不死の仙薬を作るため、老道士が杜子春に無言の行を言いつけました。数々の試練に耐えていた杜子春ですが、我が子の命が目の前で奪われる幻影を見たとき思わず「ああ!」と声を漏らし、不老不死が夢と消えてしまうというお話です。
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今から1200年前、唐代の中国人の心情も、現代日本人の心情もそう変わるものではないようです。振り込め詐欺はまさにこの人間の愛情に付け込んだ卑劣な犯罪だと言えます。たとえ肉親が窮地に陥ったとしても決して取り乱さず、事実をしっかり確認して行動するのがより大きな愛情の在り方ではないでしょうか。
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東日本大震災で被災した多くの方々が肉親を失い、杜子春と同じ「ああ!」という叫びを上げました。誰一人、仙人になるための試練を乗り越えた人はいませんでした。
もちろん、それでいいのです。むしろ、そうでなくてはならないのです。
喜びも悲しみも何も感じない不老不死の命に、一体何の意味があるでしょうか。
芥川龍之介は同じ『杜子春』という小説の中で仙人に「もしお前が黙っていたら、おれは即座にお前の命を絶ってしまおうと思っていたのだ」と言わせています。
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『杜子春伝』の中で老道士は「愛」を捨てられなかった杜子春に「子の身はなお世界の容るる所となるがごときなり。これを勉めよや!(お前の身はやはりこの世に受け入れられることになったようだ。頑張りなさい!)」と言っています。
杜子春の物語は、仙人になれない人間の弱さを描いたものではありません。「ああ!」と悲しむからこそ、私たちはこの世界の一員として受け入れられ、胸を張って生きていくことができるのです。
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どんな悲しみがあっても、頑張って生きていくことには大きな価値があります。その悲しみを経なければ見つけられなかったような喜びが、行く先に必ず待っているのです。
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